タクシー専用車の未来

都内のタクシー会社が、一斉に値上げ申請を行ったらしい。現状普通車で660円のところ、最大で800円程度まで値上げされる可能性があるのだという。とはいえ、業界では750円程度に落ち着くとの見かたが大半を占めているようだ。

今回の値上げの主な理由は、燃料価格の高騰にあるという。ガソリン価格の高騰は、我々一般ユーザーにとっても密接な問題だが、LPGもその煽りを受けて価格が上がっているのだという。もうひとつ運転士の待遇改善も理由に含まれているが、タクシーは今のところ需要に対して台数が多すぎる。業界全体でこの問題に取り組まないと、目先の値段を上げたところで、客離れこそ誘発しても、収入増は見込めないだろう。

タクシーはとにかく走行距離が多い。年間10万キロを走ることなど珍しいことではない。走り回るのが仕事なのだからあたりまえのことである。そのため、燃料にかかるコストは、タクシーを選ぶ上で非常に重要なことになるはずである。しかし、現状タクシーとして主に利用されているクルマを見渡してみると、長い間特に大きな改良も受けず生産されつづけている時代遅れの化石のようなクルマばかりだ。

街でよく見かけるタクシーの大半は、トヨタコンフォート、クラウンコンフォート、クラウンセダン、日産クルー、セドリックセダンといったところである。いずれも80年代に基本設計されたプラットホームをベースにしている上、エンジンはもういつのモノかもわからない化石のような古いエンジンを今でも使っている。

メーカー側としては一定の台数は売れるものの、すべてを刷新するほどお金をかけるには、うまみの少ないタクシー需要に対して、当面はこのままという姿勢を崩さない。対してタクシー会社としても、整備性の良さや部品の安さ、車体価格の安さを求めるため、あまり大きく刷新しなくてもいいという両者の利害は今のところ一致している。

しかし、LPGの1リットルの値段は80円前後と依然として安いものの、タクシー専用車両に搭載されている古いエンジン(3Y-PE OHVや、NA20P OHCなど)の燃費はリッターあたり5キロ程度だという。燃料コストの増大が価格アップのひとつの理由とするならば、タクシー専用車両の燃費アップは必要な課題なのではないだろうかと思う。

例えば、都市部で105〜108円程度で販売されている軽油。すなわちディーゼル車などを例に挙げるとする。街を走るタクシーにそれほど高い性能は必要ないから、カローラあたりに1.4Lのディーゼルターボを起用(1ND-TV)すると(このエンジンはガソリン1.8L並のトルクを発揮する)リッターあたり15以上は走ってくれるだろう。そうすれば、LPGよりも燃料コストはかからない計算になる。また、近年のガソリンはコンパクトカーなど低燃費のモデルも多く、近頃軽やコンパクトカーをはじめ、昔に比べて多彩な車種がタクシーとして導入されていることを考えると、タクシー会社としても、ガソリンでもLPGより安く走らせることができるということなのだろうと思う。

また、タクシーはFRがベースというのがあたりまえだったが、近年ではそれにこだわらない会社も増えている。FFの技術的な進歩もあり、特に問題がなくなったということもあるだろう。また、各社世界戦略上、5ナンバーサイズのFRプラットホームを持たなくなっているという意味で、これからもしもタクシー専用車が出てくるとすると、FFをベースにする可能性が高い。例えば、プレミオやブルーバードシルフィをベースにしたタクシーが出てくると考えるのが自然だ。これらのクルマは、室内も広くタクシー専用車としても、必要十分な条件を満たしそうである。

また、このまま新しいLPGエンジンが出て来ないとすると、タクシ−=LPGという時代は終わるのかもしれない。そして、その鍵を握るのが、やはりディーゼルなのではないだろうか。2010年に日本国内ではガソリン車並の世界でもっとも厳しいディーゼル規制がはじまる。これに適合すれば、ディーゼルであっても、ガソリンと変わらないクリーン性能を持っていると証明されることになる。

トヨタ、日産、ホンダ、三菱などがすでにこの辺の技術的な問題に目途をつけ、2010年以降国内で新ディーゼル車を市販すると発表している。となると、2010年以降、タクシーにも大きな変革の時期が訪れるかもしれない。私は将来的には、5ナンバーFFセダンをベースに、燃費のよいディーゼルエンジンを搭載したモデルがタクシーとして多く出回るようになると予想している。そういう意味で、クラウンセダンの対抗馬として設定されている日産ブルーバードシルフィ「ブロアム」は、これからのタクシー専用車の行く末を暗示したもののような気がする。