タイヤ脱落事故等々

三菱ふそうトラック・バス株式会社が届け出たリコール、すなわちタイヤ脱落事故に関する対応やこれまでの経過などは、今では別会社となっている三菱自動車工業にも影響があるだろうと思う。三菱ふそうトラック・バス三菱自動車工業より分離され、設立された会社であるわけだから、当然今回リコールの対象となる車両は三菱自動車工業が開発・生産したものとなる。そういったことだけでなく、三菱といえば、2000年にリコール隠し問題が明るみに出て、社会に大きな影響を与え、信用をまったく失ってしまったという件はまだまだ記憶に新しい。そこに来て、またこのような話がマスコミなどを通じて報じられると「三菱はなんにも反省してないんじゃないか?」とか「クルマを作る側としての責任感はあるのだろうか?」とか世間はそんな風に思うだろう。いやいや、三菱だって最近は魅力のあるクルマを出しているし、販売店の対応だってそんなに悪くないと言っても、クルマに特に興味のない多くの消費者の一人である私の友人などは、そんなことは関係ないのだろう。三菱は買う気になれないと言う。

マスコミというのは、時として印象を与えるような報道をする。例えば、今回のような事例なら、三菱は悪い!三菱はなんにも反省しちゃいない!そんな印象を与えるようなことをする。それは、やはり正しい報道とはいえないかもしれない。でも、2000年にリコール隠し問題が社会を騒がせただけに、こういう問題に対しては、本当に注意深く、そして素早い対応を取るべきだったのではないかと思う。タイヤ脱落事故があちこちで起き、その度にニュースで取り上げられる。それでも、整備不良だと言い続け、その間にも事故は起こってしまう。その中には、三菱製ではないものも含まれているのだが、いつのまにかタイヤが脱落するのは三菱みたいな印象にされてしまっている。その上での“やっぱり不具合がありました”では、あまりにも三菱ふそうのトップたちの対応はお粗末すぎる。不具合のある巨体をずっと走らせ続けていたということなのだから。安全に対する意識の低さを問われても致し方ない。

ある雑誌によると、リコールがリコールとして発覚するまでには、数年の時間を要することもあるのだという。それは、三菱側が主張していたように、整備不良という場合もあるし、いろいろな使い方をされているわけだから、時には想定外のことも起こるのだろう。だから、一件の事故ですぐさまリコールということにはならない点は理解できる。ただ、今回の件では、度々自主対策の追加を実施したりしていたようだし、内部では不具合とわかっていたのではないか?という憶測も出ておかしくない状況。また、リコールの届け出も、警察による検証結果や家宅捜索などが入り、もう逃げ切れないからという印象を強く与えるものとなってしまった。さらに、ニュースリリースによると、ダイムラークライスラーから得た新たな手法や組織を活用した結果、設計上の要因によってハブに亀裂を発生させ得る可能性のあることが判明と書いている。一見提携の成果のようにも思えるが、では元々の三菱の基準や手法というものは、どんなものだったのか?という疑問と不安も残っている。そういう意味で、不透明さや不誠実さが浮き彫りになっている。

一時は業界3位であり、今のホンダ以上に売れていた三菱だが、今では月販1,000台を超える車種は少なく、売れているのはeKシリーズとコルトだけ。グランディスも思ったほどは売れていない。あまり新車が売れないとなると、当然新車の開発費用も捻出することが難しく、魅力的な装備やメカニズムを持った車が出にくくなったり、あるいは現状ではすでに排出ガス対策のために、エンジンなどが退化してしまったクルマもある。グランディスが登場した当時に、安くても買いたくないと答えた人が70%近くいたと開発者が言っていたが、少しずつまた信頼を取り戻し、デザインもクルマも変わり、これからという時に(三菱ふそうの事とはいえ)こういう問題で三菱がクローズアップされることは、本当に熱意を持って車を作っている人や、一生懸命売っている人を裏切る行為といわざるを得ない。こういうことが続いてしまうと、私も三菱のクルマをおすすめしにくくなってしまう。とにかく、せめてこれからの対応は迅速かつ誠意あるものであるようにしなければならない。さもなければ、本当に三菱という会社は無くなってしまうかもしれない。

最後になったが、事故により亡くなった被害者やその遺族、また整備が悪かったと殺人者扱いをされて、人生がまったく変わってしまった運転士も、ある意味では被害者と言えるだろう。せめて今後の人生が(と言っても亡くなった方は戻らないが)少しでも良いものであるように祈りたい。