アルティスといふクルマ

ダイハツアルティスというクルマをご存知だろうか。そこそこクルマに興味がある人と話していても、そんなクルマがあるの?と聞き返されることもある。それほど認知度のないクルマである。このクルマは、トヨタからカムリのOEM供給を受けるモデルであり、実態としてはまったく同じクルマといえる。

1990年代までダイハツは、カローラ系のコンポーネンツを使って、シャルマンやアプローズといったちょっと高級感のあるセダンを作っていた。昔はそれなりに(と言ってもやはり少なかったが)売れていたが、90年代に入ってからは、ほとんど見かけることはなく、主にダイハツ関係者(特に本社役員車や幹部の自家用車のために)のために細々と生産が続けられていたのである。しかし、さすがに10年選手となったアプローズは1999年に生産終了。新たに新型車を開発しても商売にならない上、小型車メーカーに特化するという親会社トヨタの意向もあり、1.5L以上のクルマは作らせてもらえない。ついにダイハツフラッグシップセダンの灯火が消えてしまったかに見えた。しかし、トヨタもそこまで鬼ではなかった。新開発は無理だが、うちのクルマを提供しようということで、カムリを供給。2000年3月に「アルティス」がデビューする。

それまで、1.6Lのカローラクラスのクルマだったのが、2.2Lの3ナンバーラージセダンであるカムリになったのだから、これは十分すぎるほど上等なものだ。コロナやカリーナにしなかったところにトヨタの心意気を感じる。そのアルティスが登場して、早いもので6年になる。カムリのモデルライフ後半に登場したため、初代は1年半しか生産されなかったが、2代目はカムリと同じく4年半生産され、ついに3代目となったのである。今度のアルティスもまったくカムリと同じクルマであり、ボディカラーも全7色から選べる。しかも、ラインナップは上級グレード「リミテッドエディション」のみ。カムリより上級という位置付けかと思うが、ただ単に主な客はダイハツ関係者だから、上級はエントリーグレードも兼ねるというところか。

このクルマ、カムリとの違いはフロントやリヤ、ホイールキャップのトヨタマークがダイハツマークになっているのと、内装ではステアリングのマークがダイハツになっている程度。新型はナビ付きの写真しかないのだが、先代まではオーディオに印刷されていた「TOYOTA」というロゴは、そのまま。ナビのオープニング画面も「TOYOTA」と出ていたから、今度もそうだろう。いすゞアスカ(アコードのOEM)は、あの生産台数でもオーディオのカセット挿入口は「ISUZU」と印刷されていたことを考えると、まぁ身内だし、このくらいいいじゃんという話が聞こえてきそうだ。ただ、新型カムリのオーディオは、エンジン始動時に“WELCOME TO CAMRY”の文字が表示されるらしいが、これは“WELCOME TO ALTIS”に変更されているのだろうか。

このアルティスというクルマ。おそらく日本で一番売れていないクルマだろう。マイバッハとかロールスロイスとか、そんな特別なクルマはもちろん除いてである。2005年の販売台数は114台。あのセンチュリーですら590台売れている。しかも、過去5年間の販売台数は合計916台。1,000台に満たないのである。この台数で街で出会うことは、まぁないに等しいと言ってもいいくらい。カムリと見分けがつかないということもあるが、池田市ダイハツ町あたりに行かないと、そうそう出会えるものではない。そんなアルティスだが、私は1回だけ見たことがある。今から4年くらい前のことだ。大阪某所で初代アルティスが駐車しているところに出くわしたのだ!!正直その時は興奮した。しかし、それ以来1度も出会うことはなく、2代目アルティスは1度も見たことがない。本当に売られているのだろうか?と思うほどだ。先代もボディカラーは全色設定はあったが、たぶんダークレッドマイカメタリックなんて1台もこの世に存在していないと思う。そんなクルマに乗れるチャンスはそうそうあるものではない。人とは違ったもの、貴重なものにさりげなく乗りたいという人、新型カムリではなく、アルティスを考えてみませんか。