美しいという名のクルマ

所用のため、トヨタベルタに試乗する機会があった。今回は市街地、峠、有料ではないが、高速道路に近いペースの速い道を含めて、合計約400kmを走ったので、その感想を記しておく。

トヨタのセダンとしては、ボトムに位置するベルタだが、今回乗ることになったのは、ベーシックな「X」グレードで、排気量は1.3L(2SZ-FE型)エンジンを搭載したものだった。組み合わされるトランスミッションは、Super CVT-i である。

TVKの自動車番組 新車ファイル「クルマのツボ」http://www.tvk-yokohama.com/tubo/2006/060212.html
によると、番組計測値の燃費は、16.9km/L。4名+機材を載せての数字のため、これはかなり期待できるのではないかと思い、今回は主に燃費に心がけて運転してみることにした。

まずは、スタイリングの印象だが、確かに「美しい」という名を名乗るだけあって、セダンとして価格相応の質感を表現している。存在感もある。ただ、最近のクルマは総じて同じことが言えるが、エンジンフードはまったく見えない。コンパクトカーということもあり、慣れれば大した問題はないが、もう少し見切りのよいデザインを採用してもよいのではなかろうか。

そこで、クルマのツボ的に、私のよかった点と、悪かった点をそれぞれ上げてみたい。


<ベルタの魅力的なポイント>

○ 低速トルクのあるエンジンと、完成度の高いCVT = 高い燃費性能
○ 見晴らしのよさ
○ 最小回転半径 4.6m という小回り


以上の3つが印象に残った点である。まず1つめの燃費だが、今回はじめに5名が乗車して260kmほど走ったが、ガソリンは16LでインジケーターはFになった。計算すると平均燃費は16.25km/Lとなり、5名乗車という点を考えれば「クルマのツボ」と大差のない数字が出たといえる。もちろん、これはむやみやたらに回転を上げず、低燃費運転に心がけた数字であるから、もっと加速を俊敏にしたり、高回転を多用していれば、燃費は悪化する。もともと先代ヴィッツのためにダイハツが開発した1SZ-FE型をベースとする、この1.3Lエンジンは、フィーリングや音は洗練されていないが、トルクはしっかり出ており、5名乗車でも3,000回転代まででこと足りる。11.8kgmと、ライバルと比べてやや控えめなトルク数値となっているが、それはまったく感じさせない。法定速度の範囲内なら、なんの不満もなく、すぐに必要な速度へと持っていくことができる。

やはりエンジンのおいしいところを引き出すSuper CVT-iの効果は大きく、また燃費にもこのトランスミッションが大きく寄与していることがわかる。信号で止まった後、スタートではブォーンと回転が上がり、トヨタ流の少し過剰な演出(ビュッとスロットル開度が開き感覚的に加速の良さを演出している)を感じてしまうが、40km/hや60km/h程度でアクセルをスッと弱めると、もう加速をする気はないと判断し、低燃費モードに入る。すると、もうほとんどエンジン音は聞こえず、おそらく2,000回転前後をキープしている(タコメーターがついていないため、耳での予測である)。渋滞に入ると、20km/hや30km/hで巡航することになるが、このときには、ストールしそうな音さえする。たとえれば、5速MTで5速で30km/h前後を走っているような感覚だ。やばいエンストしそう・・・というギリギリの低回転を使って、極限まで燃費を重視しようという意図がこまのトランスミッションには感じられる。その結果は、やはり数字としてしっかり出ているということになる。通常のATならば、6速ATを採用しているのと同じくらいの効果は出ているのではないだろうか。

次に、見晴らしの良さを上げた。見た目は普通のセダンだが、想像していた以上に運転席からの見晴らしはよく、運転しやすいのである。ラチェット式のシートリフターも扱いやすく、これを上げてやれば、さらに見晴らしのよい運転ができる。こういう点では、疲れにくいという利点もあるだろう。

そして、最後に上げたのが小回りが利くということ。交差点で曲がるときにも、ステアリングをちょっと切っただけでスッと回る。最初は「何この小回り!」と戸惑ったほどだった。調べれば最小回転半径は4.6mと軽自動車並。これは非常に扱いやすく、コンパクトカーとしては褒めるべき点である。

それでは、次に良くないと感じたポイントを上げたい。


<ベルタのウィークポイント>

○ 気持ちよくない
○ Aピラーが邪魔
○ タイヤが頼りない


最初の気持ちよくない。というのは、このクルマに求めるべきものではないが、エンジンは決して気持ちのいいものではなかった。先ほどは低燃費重視モードで話したが、少し違う面も見てみたく、CVTをSレンジに入れ、ストップからフルスロットルで加速を試してみた。これは、CVTという特性もあるのだろうが、6,000あたりまで気持ちよくスパッと回らない。5,000回転以下でズルズルと固定されたまま、スピードはそれなりに上がって行くも、やはり1.3Lエンジンに5名乗車ではこれが限界かと感じられた。法定速度(100km/h)まではなんの不満もないが、それ以上の速度や、80〜100km/h加速などで、追い越しをするときには、少し物足りないものを感じる。低速でまったり走るにはすばらしいクルマだが、俊敏さを求めると、この点ではまったくダメということになってしまう。

次にAピラーが邪魔。というのは、先にあげた「クルマのツボ」の中でも指摘されていたが、私も同じことを感じた。交差点で左折をするときなど、Aピラーが邪魔をして視界が良くない。目につくのはAピラー。岡崎五朗氏の言う通り、圧迫感も感じるし、視認性の面でもマイナスだ。この点はデザインを重視してしまったためなのかもしれないが、もう少し視認性を良くしてもらうと、運転者はもっと楽になるのである。

最後に、タイヤについて上げたが、おそらく燃費重視のタイヤを履いているせいか、非常に細くて頼りない。そこそこのスピードでコーナーを回ると、タイヤが悲鳴をあげ、グニャっとなるのがわかる。燃費は大切だが、この辺はもう少し大切にしてもらってもいいところではないだろうか。ただ、私が今回乗ったベルタは「X」というベーシックグレードで、14インチのタイヤを装備しているが、オプションで15インチタイヤとアルミホイールが選べる。また、上級グレード「G」には15インチタイヤが標準装備となっている。最小回転半径は4.9mとなるが、ファーストカーとして使うなら、私は15インチを選ぶことをおすすめする。

あと、特にウィークポイントには上げなかったが、個人的にはブレーキが甘いと感ずる。もう少ししっかりとブレーキが利いてくれた方が安心感が高い。


<総評>

全体的には、この価格帯としてはよくできたクルマだと思われる。もちろんコンパクトカー、ヴィッツベースであることは隠せず、ペダル、ステアリングなどの感触やタッチとでも言うのだろうか。そういうものは決して質感は高くなく、クラスなりのものだが、静粛性や乗り心地はまずまず。大人っぽい味付けとなっている。ただ、先ほども言ったが、ごく普通にまったりと走るにはなんの不満もないが、少しモアパワーを求めたり、クルマにしっかり感、安心感を求める人には、カローラクラスをおすすめする。ただ、ベルタにもタイヤやブレーキを強化し、1.5Lエンジンを搭載したモデルがあっても悪くない。これ1台ですべてをまかなおうというのなら、多少割り切りも必要だ。だが、トヨペット店にはプレミオ、カローラ店にはカローラの1.5L車があるため、1.5L以上を求める人は、そちらを買ってくださいということかもしれない。