日産の危機

日産の国内新車販売台数が下降している。普通車と軽自動車をあわせると、今となっては、スズキの方がむしろ売れているほど。カルロスゴーン社長兼CEOはその手腕が大きく評価されてきたが、ここに来て、そろそろ彼の手腕にも疑問の声が出てきている。彼が行ってきたことは確かに凄く、また結果を出しているという点は、否定できないのだが、ここまで新車販売が落ち込んでいるというのは、やはりゴーン氏の無理のある新車投入計画にあるといわざるをえない。

日産180計画をなんとしても達成させるため、ゴーン氏は半年で大量の新型車を投入した。日本国内では、ムラーノにはじまり、ティーダティーダラティオ、フーガ、ラフェスタ、ノート。そしてセレナも含めれば7車種もの新型車を短期間に投入した。確かにこれは瞬間風速的な効果をもたらすだろうが、共倒れになってしまうという危険性もあった。なぜなら、ディーラーではひとつの新型車が出ると、その販売に力を入れる。新型車効果は3ヶ月〜半年程度持つといわれるが、日産は毎月のように新型車を投入。これでは、販売現場では力を入れ暇もなく次の新型車の販売に力を入れざるをえなくなる。初動こそ好調になるが、セールスパワーは分散し、共倒れ状態に。最後に発売されたノートと、約5ヶ月の間隔を置いて発売されたセレナは現在でも好調なセールスを記録しているが、新型車ラッシュの中で、そこそこ成功したのはティーダだけである。

ティーダはコンパクトな2BOXとして売りやすい車種であるが、ラフェスタやサニー後継のラティオなどは販売は振るわない。フーガもクラウンに比べれば惨敗である。特にフーガなどはクルマの出来はよいだけに残念だ。結果として、このような新車投入計画により、瞬間風速的に日産の販売台数は伸びた。商用車を除く販売台数は70万台を超え、2004年を上回った(オッティのおかげともいえるが)。そして、無事に日産180計画を達成した。ただ、その後の動向はご存知の通りである。10%も20%も販売台数は落ち込んでいる。ゴーン社長はこの失速は想定の範囲内と言っているが、そこまでしてこの計画を達成させる意味があったのだろうか。

特に2006年の新車投入計画がスカスカになってしまったのはかなり痛い。特にラフェスタ、ノートは当初より半年も前倒しして発売となった。それ以降も前倒しせざるをず、今年出せるクルマがもう無くなってしまった。スカイラインセダンをなんとかがんばって年内に間に合わせるくらいのことである。残りはスズキ製の軽自動車モコの新型、そしてこれまた三菱製の軽であるオッティ、そしてさらに苦肉の策として、秋にはまたスズキからアルトのOEM供給を受け、他社の軽ばっかりが日産の新型として出てくる。国内販売台数の落ち込みを他社の軽で数字上でなんとか修正しようとしている。

しかし、いくら軽が売れたところで、日産製のクルマが売れなければ意味がない。そのためには、日産製の車種が魅力的なものでなければならない。これまでのようにチープで貧相なクルマ作りをしていては、日本のユーザーは誰も日産に見向きもしなくなるのは間違いない。そして、魅力的な車種が無ければ、どんどん日産のセールスマンは軽ばかりを売る。軽ほど売りやすい車はない。すでにそのような雰囲気になっているという。

ゴーン氏のこのような経営は売れ線SUVを連発したアメリカでも似たようなことが起こっており、瞬間風速的な販売を記録したが、今は落ち込み傾向。さらに短期に多数の新型車を投入したことで、品質に問題が出るなど良くないニュースも入っている。カルロスゴーン氏の問題点は、まず1つめに、無理やり計画を達成しようとすること。彼は自分の業績や名誉にしか興味がない。そして2番目にデザインがよければクルマは売れるという大きな勘違い。

現在進められているGMとの提携も意味があるとは思えない。これも単にゴーン氏の自己満足的なものである。世界トップのGMの建て直しに一役買うことは、これ以上ない業績、功績、名誉だからである。最近そういう態度がずいぶんと鼻につくようになってきた。あまりにもゴーン氏のワンマンぶりが発揮されると日産もルノーも壊れてしまう可能性がある。そろそろ、この人には注意した方がいい。少なくとも日産の社長は退任していただき、会長にでもなってもらい、ルノーのCEOに専念していただきたい。志賀COOを社長兼CEOに昇格させればよい。アメリカも大事だ。しかし、もっと日本を向き、日本人が求めるクルマ作りをしていくためには、やはり日本人の社長が必要ではないか。中身がいくら良くてもデザインが悪ければお客はそのクルマのことを知ろうともしないとゴーン氏は言う。しかし、今の日産車はデザインに惹かれてもっと知りたい!とせっかく思ったお客が商品を見て失望するものが多い。抜本的なクルマ作りの改革が必要だ。これまでのようなケチケチ路線では、日産は他社の軽自動車の販売下請けメーカーに成り下がってしまう。